1・2日目(東京・室蘭) | 3日目(サロマ湖) | サロマ湖・その2 | 最終日まで |
第3日 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
0615網走駅着。私はここで、ある人と待ち合わせをするのだ。 私は第1次遠征の時に「初めての北海道、しかも野宿!」というプレッシャーと「下手したら死んじゃうかなあ。」という危険を計るために「北海道アウトドアエキスプレス」の掲示板へ駆け込んだ。そして第2次遠征の時もお世話になった。 同サイト管理人である Showheyさんとはこの縁で知り合ったのである。氏は「イーストサイド」という雑誌の編集者でもある。 今回は、その雑誌のネタの一つとしてこのサロマ湖縦断に対する取材を氏から提案されているのである。 こんなオファーなんて生まれて初めてのことなので、思いっきり浮き足立った私は二つ返事で承諾したのだ。 いやあ、ドキドキするなあ。写真をパシャパシャ撮られちゃうんだよ。そいでもって雑誌に載っちゃうんだよ。まるでグラビアアイドルじゃないか!(違う) いや、待てよ。ヒトに写真を撮られ慣れてなんかないからキッついなあ。うわあ。どういう顔して写ればいいんだろう。あどけない笑顔で浜辺でビキニなのか。 幸いなことに私はもう 24歳なので水着グラビアの年齢ではない。良かった。(ますます違う) 私は駅前のコンビニで水とカロリーメイトとネタ用のフィルムを買い、駅の立ち食いで天ぷらうどんを食べ、トイレで顔を洗い、態勢を万全にしたのである。 そして動物園のシロクマのように駅構内をウロウロし、ときどき駅前ロータリーをチラチラと見たりして待ちくたびれた頃に、氏はやって来た。
0815頃、駅のベンチに置いた荷物の周りをうつむき加減でウロウロしている私に声を掛ける人がいる。ハッとして顔を上げると「宗教の勧誘」の人ではない感じだったのでスバヤク相手を確認し「ヨロシクお願いします。」と言うカンジでスバヤクあいさつをしてスバヤク氏の車へ荷物を載せ、その車はスバヤクサロマ湖方面へ発進したのであった。 車は凍った網走湖と能取(のとろ)湖の側を走り抜けた。いずれの湖も2年前と比べてガッシリ固まっている感じで、開氷部は無かった。サロマ湖もいい感じに凍っているのだろう。 駅から湖へ向かうバスの中で景色を眺めながらコンビニ牛丼をモグモグと食べていたという第1次遠征の「知らない」こと故の余裕は、しかし今回まったく無かった。いよいよ手強い敵陣へ突入するのだ。 0900頃。Showheyさんと話をしたり覚悟を決めたりタバコを吸ったりしていると、とうとうサロマ湖へ到着した。 「ネイチャーセンター」の真っ白な駐車場に車を停め、取材内容の確認をした。ここから1時間〜2時間ほど Showheyさんが同行し写真撮影をする。そして2泊後の午前中に竜宮台で編集長と合流し、装備品などの撮影を行う。そして私は少しばかりの原稿を寄せるということだ。 ここでサロマ湖周辺の地理をおさらいしよう。
サロマ湖東端にある建造物が「ネイチャーセンター」。そこから北西へ向かうと人工掘削の第2湖口がある(第1次遠征を参照のこと)。さらに少し行くと「ワッカの水」という、海と汽水湖に挟まれた砂州に真水が湧き出る場所があるのだ。そして湖口、それから少し離れて三里浜キャンプ場(当然、冬季閉鎖)と竜宮台展望台がある。展望台と言っても国道の陸橋のような感じだ。 湖口は当然、潮の満ち引きに合わせて海と湖の間を水が流れている。その幅は人工の第2湖口が約50m、天然の第1湖口が300〜400mというところである。湖口が完全に凍ることはない。 私は、いつも通りのごつい装備を背負って歩き出した。 相変わらず 45〜48kgの体重に対して荷重は 20kgほどである。テントやランタン・燃料など複数人で分担できるものも単独行では自分だけが運ばざるを得ないのだ。 ザックの重みを肩・背中・腰で受ける前屈みスタイルで私は Showheyさんに続いてネイチャーセンターの誰もいないゲートをすり抜けた。 しかし実は、そのネイチャーセンターでは複数の光る目が2人を捉えていたのだった…。 第2湖口までは一応道路があるので「ゴム長だけでも大丈夫かな」と歩き出すと、今年は雪が深くて歩きづらい。左手にぶら下げていた今回の秘密兵器「スノーシュー」を装着することにした。 スノーシューを雪面に置いて、まず右足をセットする。かがみ込むと荷物がグワァと背中を押しつぶそうとする。 「うっ!クック…」 目を白黒させながら何とか装着できた。が、左足のセットをしようと足を載せると体のバランスが取れなかった。少し頑張ってみたが、諦めて荷物を降ろし装着。初めてにしては上手くできたかなあ。 ナゼ私は背中の荷物を降ろすことをためらったのか。 階段など段差のあるところではともかく、地べたに置いたザックを担ぎ上げる時は瞬間的にかなりの力が必要で、これが意外と体力を消耗させるのだ。運動不足&過負荷な私にとってはかなりキツいのだ。 何とか秘密兵器スノーシューを装着し終えて、道なりにオホーツク海方面へ歩き出した。まだ慣れていないのでときどき自分の足(シュー)を踏んづけたり、シューの爪に積雪が噛みついて転びそうになる。
一発目の写真を載せてみたが、先に述べたとおり前かがみなのでカッコ悪い。しかし無理をしてでも背筋を伸ばして歩ける状態じゃないのだ。諦めよう。もっとカッコ悪い写真は、このあと身を削る覚悟で大放出なのだ。予め言っておこう。
緩やかな上りとなっている道を進み、オホーツク海を目にする頃には既に息が上がっていた。しかし、まだ1時間くらいしか歩いていない。 ナゼか、貴重な建造物「東屋(あずまや)」があったのでそこで2、3分休む。Showheyさんは先に浜の方へ行ってしまっている。 私は少し迷ったが、今まで歩いたことが無いサロマ湖砂州のオホーツク海側へ足を踏み入れた。 そこは、雪は深く海風は強かった。
「こ、これはツラい…。」 心の中で「シマッタ!」と叫び、北西へ進みながら浜辺から少し高くなったところへ戻った。 スノーシューを履いているとは言え、やはり雪が深く柔らかいところでは沈んでしまうのだ。いくら無謀な私でもココまで来てツラい道のりを選ぼうとは思わなかった。 第2湖口まである道に戻れば少しラクになるはずだ。 「あのー!やっぱ向こうへ戻ります!」 声を掛け、私は海側から湖側へ戻ることにした。 やはり道路は比較的歩きやすかった。しかし風は相変わらず強い。 しばらく歩くと周辺図のような看板が立っていたので、そこで風を避けつつ休憩した。
1030頃。歩き始めてから約1時間半が過ぎていた。ここで Showheyさんとは別れることになった。
案の定、独りになって何分も経たないのに 「うわ〜。怖いよ。寂しいよ。」 「帰りたい。」 という気分で一杯になった。 「今ならまだ引き返せるぞ。」 「いやダメだ。」 私は、今回の縦断が成功するならばサロマ湖については引退(?)する心づもりだった。 既に3年目。何としてでも冬のサロマ湖口を堪能しフィナーレを迎えねばならない。さもなければ私の冬はずっとサロマ湖に縛られっぱなしになってしまうのだ。 いわば悪魔と化した救いの手を振り切って、私は歩き続けた。 吹雪は止む気配を見せなかった。 気が付くと、顔の右半分が「エラヤッチャ」状態に陥っていた。 揉み上げから頬にかけて、吹き付ける雪が固まってカリカリになってしまい、慌てて手で払ったが既に皮膚は麻酔をかけたように「ブヨブヨ」感覚になってしまっていた。 右目は何だか霞んでしまった。 凍傷になる恐怖(具体的には顔の一部が腐り落ちて、赤黒い跡が残ってしまうイメージ。)が湧き出た。 衝動に駆られるままにゴシゴシと顔をこすり続けると、少し感覚が戻った。これでパニックは免れたのだった。 右の手のひらを吹雪よけにして、マフラーを口元から鼻までずり上げて、さらに歩き続ける。 マフラーさんは雪なのか吐息なのかヨダレなのか分からないままにジワジワと水分を摂取し続けた。 やがて、数少ない人工物の一つに書かれた文字が目に入った。 「第2湖口まで 1.2km」 私の最終目標がそこにあるわけではない。しかし、歩いても歩いても行く先に見えるのは地平線ダケという状況では、何らかの目安があるということが心理的な負担を少なからず解放してくれるのだ。 もっとも、それが余りにも抽象的であったり自分の予想と遠くかけ離れていたりすると、逆にこれが負担になってしまう。そして、高い確率でそうなってしまうような気がする。 こう書いたらオヤクソク。 私は 1200mという距離に対して、ただ静かに失望するしか無かったのである。
1130。やっとのことで第2湖口にたどり着く。漁協の見張り小屋があり、風よけに丁度良いので側で休む。小屋はもちろん無人で、中に入ることはできなかった。入れてくれええ! お腹が減っていたので「カロリー補充系クラッカー(商品名は忘れた)」をポケットから取り出し、ボソボソとかじる。しかし「食欲」は無いという矛盾した状態に困惑する。
第2湖口には「ワッカの水まで 800m」という標示があった。これはサロマ湖砂州において最後の距離標示である。 再び歩き出すと少し風が収まってきた。そして不思議なことに負荷による肩や背中の痛みが消えていって楽な気分になった。もしかしたらマラソンで言うところの「ランナーズ・ハイ」なのだろうか。 気を許すとその「ランナーズ・ハイ」は簡単に吹き飛んでいってしまいそうだったので、努めて 「あー、楽チンだ。なぜか分からないけど。あー楽チン。」 という気持ちを強引に作り続けた。 |
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