1・2日目(東京・室蘭) | 3日目(サロマ湖) | サロマ湖・その2 | 最終日まで |
第3日・その2 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1200。歩き始めて約3時間が過ぎた頃にようやく「ワッカの水」に到着した。「ワッカの水」は、オホーツク海の海水とサロマ湖の汽水との間にありながらも地中から真水を湧き出すというストロングなヤツなのである。しかし私は第1次遠征も今回も、そのストロングな湧き水を確かめることはできなかった。凍っていたから。 小屋と東屋がある周辺の姿は変わっていなかった。積雪の量も、防風林のせいか変わりない。 私は、そこにある小屋の陰で休むことにした。 辺りは急に静かになり、聞こえるのは時折吹く風の音と木の枝のざわめく音だけだ。 突然、側の防風林の中から「カ、カ、カ、カ」という音がした。姿は見ることができなかったが、これはキツツキだ。 単なる足跡ではない生き物の証拠に初めて触れたことで、私は発作的に逆上した。 「ドカドカドカ!」 小屋の壁を思いっきり殴る。 「カ、カ、カ、カ、カ」 まるで返事のように聞こえる。私は嬉しくなった。 「ドンドンドン!」 「カ、カ、カ、カ、カ」 「ドドドドド!」 「カ、カ、カ、カ、カ」 私は満足し、溜め息を一つついた。そして再びしゃがみ込んで、ポケットから食べかけのクラッカーを取り出して口に押し込んだ。 15分ほど休み、最後の人工物に後ろ髪を引かれながらも再び歩き出す。相変わらず吹雪は収まらない。 ついには、呆然と歩きつつ 「お願いだから、もうやんで。」 と、誰に言ってるんだか分からない言葉が漏れた。
1340 ただ風音だけを聞きながら歩いていると、ヘンなモノが聞こえる。幻聴と言うほどのモノではないのだろうけど、遠くで「あ!」というヒトの低い声みたいなのや、あるいはナイロン地の衣類が擦れるような音が聞こえたりする。ゼッタイにそんなハズが無いと分かっているのに、そっちへ目を向けてしまったりして 「んなワケねーよな。」 と、いちいち言い聞かせて歩き続ける。 このときも、いつものコレの幻覚バージョンかと思っていたらそうではなかった。 遠くにある氷の塊を、鳥や人影あるいは人工物に錯覚してしまうことがあるけど、そうでもなかった。 スノーモービルとそれに乗っている人影が2つも見える。明らかに動いてる。 1つはすぐに東の方へ去って行ってしまったが、もう1つは釣りか氷上漁なのか2点を行ったり来たりしているのが遠くに見える。 別に遭難しているわけではないのだけど、人がいたことに嬉しくなったのと今自分がどの辺にいるのか訊いてみたくなったので腕を振ってみたりする。 あまりハゲしくハデにやると「助けてくれ!」と言っているんじゃないかと誤解されるおそれがあったので、何となくさりげなく中途半端になった。おかげで気付いてもらえず、その内にその1つも東へ去って行ってしまった。 「なーんだ、ガッカリ。」 と思いつつも、やっぱりひとりぼっちという状況に少しマゾ的なモノを感じた。おいおい。 それから少しして、後方(東)から何と4〜5台ものスノーモービルが一列に並んで登場。どうも「スノーモービル体験ツアー」みたいな感じ。 「今回は、ヤケに色んなのがやって来るなア。」とぼんやり眺めてると、列が止まった。 「?」 すると、先頭のパトランプ付きモービルがナゼかこちらへ向かってくる。 「大丈夫ですかー!?」とパトランプ。 「大丈夫ですけどー?」と、かなりビビリながら応える。 「どこまで行くんですかー!」 「湖口のところまで!」 「先っぽの方ですかー!」 「そうですけど!(先っぽか。そう言えばそうだなあ。)」続けて訊きたかったことがあった。 「あのー!もう半分くらいですかね、ココは!」 「うーん、そうねえー半分くらい、いや、マダかな」 「そうですか(分かってないのかなァ)」 「気を付けて」 パトランプはそう言い残して列の先頭に戻り、アッという間に北西へ消え去った。 パトランプに位置を訊くことができたが、「どうも信憑性が低いなあ」という気持ちが残った。しかし、地元のスノーモービル乗りの目分量と、過去1回だけ歩いたことがある自分の勘とではヤッパリ前者の方が確かだろうと、何かに頼りたい一心でパトランプを信じることにした。1400。
1430頃。 「もういいや、この辺で。」 湖口付近でもう1泊する予定だから、無理をして歩かなくてもいいのだ。 「うっし!設営!」 きっかけの声を上げ、荷物を降ろした。比較的積雪が少ないところを選んで踏み固めようとするが、さすが北海道。パウダースノーは全然固まってくれないのだ。 スグに諦めて、テントを広げる。 このテントがクセモノで、実は3シーズン(春夏秋)用なのだ。生地はウスウス、天井は何と!メッシュになっているのだ。通気性バツグン!てゆーか寒すぎる。 もちろん、これではテント内に雪やら雨が入ってしまうのでフライシートをかぶせる。 風があるので設営は困難を極めた。何より、ペグが全然役に立たなかったのが辛かった。雪に突っ込んでも簡単にスポスポと抜けてしまうのだ。おかげでテントが風にあおられてしまう。アッチを押さえてコッチがめくれて、ワー! 案の定、フレームが固定できなかったりして半狂乱になりながらもテントの形ができあがった。
イソイソと中に潜り込み、断熱シートを敷いて座り込んだ。そして呆然としながらタバコを吸い出す。 「そう言えば、本を持ってくるの忘れたな…。」 まだ日は落ちていないんだから防風林を抜けてオホーツク海側まで散策してみたりすればいいのに、ドローンとたたずむばかりであった。 と、そこへエンジン音が。 「またスノーモービルかよ、今年はヘンだな。」 足音が聞こえたのでテントから首を出すと、そこに男が一人いた。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ。」 「私は常呂町観光課の者なんですけど、あのー、ここは国定公園内なんですよ。」 「そうですか。(知らなかった。)」 「一応、ここら辺では煮炊きとかしちゃいけないんですよ。」 「はあ、気を付けますから大丈夫ですよ。(何だか雲行きが怪しいな。)」 「ここで1泊するんですよね。それからどうするんですか?」 「えー、ココで1泊して明日は湖口へ向かいます。」 「それで戻ってくるんですか?」 「いえ、湖口は凍ってないですよね、そこを迂回して竜宮台の方へ上陸する予定なんですけど…。」 「それはアブないですよ。」 「いや、去年…じゃなくておととしも同じコトをしたんですけど大丈夫でしたから。」 「夜はホントに冷えますよ。」 「はい、分かってますから。」 「朝、一緒にいた人は…?」 「えッ?あの人は途中で戻って行きましたけど?」 「そうですかァ…」 思いっきり納得いかない口調を置いて、トコロチョーカンコーカは東へ去って行った。 ナンダナンダ、今回はいちいち水を差されるなあ。第一、あのスノーモービルは何だ!速くて楽チンで少しうらやましいぞ! トコロチョーカンコーカがいなくなって、「あ、そうだ、メシだメシだ。」とお湯を沸かしてレトルトのご飯とカレーを温めた。 前回は熱湯で痛いメに遭っているので万全の態勢でお湯の取扱いを決行した。 「さあて食べよう。」 でも食欲がない。疲れてるから?結局半分くらい残して食べるのをやめてしまった。 「残してもゴミを持って歩かないといけないからなァ。でも食えないんだからしょうがないか。」
カレーを放り出してツーリングマップルを開く。位置が分からないのに地図を開いても虚しいだけなのであるが、頭にある情報と勘を総動員して何となく自分の位置を決定した。 「どーでもいいや、とにかく明日は湖口だ。」 吹雪も収まり、ジッとしていると静けさだけが漂っていた。 「あぁ、やっぱり怖くなってきたなあ。でも今回は酒も持ってきてないしなあ。」 ぼんやりとしていると不意にエンジン音が響いてきた。 「またかよ!今度はダレだ。」 テントから首を出すと、さっきのトコロチョーカンコーカと数台のスノーモービルがいた。 何だかきなくさいモノを感じながら私はテントから出るとトコロチョーカンコーカが言った。 「あのですね、やはりココは国定公園内ですし、寝泊まりするのは危険ですよ…」 「はあ。」 アッという間に大勢に囲まれてしまった私は、その中に太めの警察官を見つけた。 (何で!?何でケーカンがいるんだー?オレ、何かやった?) 今まで一度もケーサツのご厄介になったことのない私は混乱の怒濤に巻き込まれた。 (てゆーか、トコロチョーカンコーカは何で警察を呼んだ?自然公園法違反?ウソッ。ココが国定公園だとしても国立公園ほど規制は厳しくないはず…。何で…。) ボーゼンとする私にトコロチョーカンコーカとケーカンとその取り巻き達(何者?)は口々に言った。 「ココで一泊するのもアブナイし、氷の上を歩いて行くってハナシも聞いちゃったしね」 「私らが聞いた以上、もし何かあった場合セキニンのモンダイが…」 「夜はホントに冷えるから…」 こんな事態を予想もしなかった私は半泣きだった。 「はあ…、そうですね、皆さんのご迷惑になるみたいですし、撤収します……。」 私は過失犯にでもなったような心境で「チーム・常呂町」にそう告げた。弱い。弱いぞオレ。
私はあたふたとテント内に散らばった荷物をとんでもない勢いでかき集めてザックにとにかく押し込んだ。 そしてテントを潰す。 「傾いてるじゃん…」 誰かが言った。あー、そうだよ。傾いたテントでもヘーキなんだよう!オレは。コレで強風の納沙布岬も過ごしたんだよ! もちろん心の声なのであるが。 テントに張り付いた何人かがフレームを抜くのを「手伝った」が、アッチが引っ張ってコッチも引っ張って「何やってんの?」状態になったりしながら、哀れテントは日没を待たずに数時間の役目を終え、ぐるぐる巻きになった。
そして私はチーム・トコロチョー機械化歩兵部隊の1台の後部座席にザックを背負ったまま座り、部隊の「いざ行かん!」の号令を聞いた。 が、席の後ろは何にも無い状態なので、慣性の法則に従う荷物に引っ張られるままに私はひっくり返りそうになった。運転手のアンちゃん一等兵は気が付かずに発進しようとする。私は叫んだ。 「待って待って、落ちる、落ちるってば!」 「横に握るところがあるから持って。」 足下に後方座席用の握りがあったが、そんなモン意味無いよ。前になきゃ。 なおも発進しようとするアンちゃん一等兵。 「待って待って!ダメ、荷物に引っ張られるから!」 「じゃあ腕を回して。」 言われるままにアンちゃん一等兵の腹に右手を回す。左手は握りを持たないとアンちゃんごと、というか自分だけかも知れないが後ろへ転げ落ちそうなので決死の覚悟で力を込めた。 アンちゃん一等兵のスノーモービルは、ややチーム常呂町から遅れながらも、ものすっごいスピードで西へ向かった。 (何でこんなにスピード出すのん?) 氷上を上下にがくんがっくんと跳ねながらアンちゃん一等兵は進む。 ぎゅういいん。 不意にアンちゃん一等兵はハンドルを切った。私は慣性の法則の虜となり、荷物もろとも半ケツ分左へズレた。要するに右ケツだけで乗ってるのだ私は。 (落ちるってば、落ちる!) 左足が落ちて雪をかいてるし。 マッシーンが跳ねるたびに 「ぎゃ!」とか 「あぅ!」とか 「おゥ!」とか 叫びつつ私の腕は、無理な体勢とスピードと疲労とで限界に達していた。アンちゃん一等兵はハンドルを左へ切った。 私は左ケツがシートに戻るばかりではなく、左ケツだけで乗っている状態に切り替わった。 「待って待って!落ちる落ちる!!」 聞こえないのか聞こえないフリなのか一等兵はウンともスンとも言わない。ただエンジンの爆音が響くばかりなのだ。 もう私の体はギュウギュウ詰めの京王線通勤電車でヘンなポーズのまま身動きが取れなくなってしまったヒトのようになってしまった。 (つぎ、曲がったらホントに落ちる。氷の上で落ちたら頭打ってヤバそうだな、上手く落ちる方法は無いかな。てゆーか、オレが落ちたらアンちゃん一等兵、業務上過失致傷で訴えるからな!民事訴訟もだぞ!) ついに臨界点に達しようとしたとき、私はアンちゃん一等兵の腹だか胸だか肩だかを叩いてエマージェンシーを伝えようとした。ようやくそれに気付いたのかアンちゃん一等兵はスノーモービルを停止させて 「大丈夫?」 と言った。(おまえなー。) 私はキチンと両ケツが乗るように体制を直して 「大丈夫です。」 と言った。 その後もぎゃ!とかあぅ!とかおゥ!とか言いながら、何とか落っこちずに済んだ。 そうして着いたのは、朝に通り過ぎたネイチャーセンターだった。
私はある意味、心神耗弱状態になった。こんな怖い思いをするくらいならちょっとした吹雪の中で夜を明かす方がまだマシだ。そして「捕らわれた宇宙人」の心境と自分を重ねながら呆然と、そしておとなしくネイチャーセンターの中へ連行された。 少し広い教室のようなエントランスのテーブルにケーカンと向かい合わせに座った。 「そこ、寒いからこっちの方がいいんじゃない?」 狭い事務室を指して二等兵その1が言う。どっちでもええよ、オレは。ケーカンが立ち上がったのを見て私は付いていく。 部屋にはチーム・常呂町が一堂に会していた。ケーカンと私は真ん中のテーブルに着いた。 「どこから来たの?」 「トーキョーです。」 「何か身分証明できるモノは無い?」 「あります。免許証が…。」 ケーカンは真っ白な紙を取り出して氏名と住所・本籍地を書き写した。 「なにしてるの?学生さん?」 一番困るのだ。私は明治大学を卒業して目下、司法書士受験生だ。いわばプーだ。しかし同時に私は法政大学文学部地理学科の学生(通信課程)でもある。何で?あのー、ね、土地家屋調査士ってのは(表示)登記業務が主な仕事で…、司法書士は(権利)登記業務が主な仕事で…、えーとそれで、土地家屋調査士になるのにあたって、測量士補の資格があると近道なんですよ。で、通信課程の大学で唯一卒業と同時に測量士補の資格が得られるのが法政大学文学部地理学科なんです。でも本業は司法書士受験であって…。 「あー、そうです。イチオー。」 「学生証ある?」 言われるままに私は差し出した。 常呂町機械化歩兵部隊所属二等兵その2がホットココアをいれてケーカンと私の前に置いた。 「法政大学ね。」 そこへ二等兵その3が口を開いた。 「法政大学かあ。なんとか旅館になんとかの生徒が合宿かなんとかでよく来るよな。何とかセンセーって知ってる?」 「(うっさいなあ)いや、知らないです。」 (通信課程なんだよ、しかも一単位も取ってないんだよ。) ケーカンは何かを書き写した。 「それで、家は家族と住んでるの?」 「いえ、一人です。」 「連絡先を教えてくれるかな。」 「あのー、えーと。」 「何かあったときにね、連絡するところがないと困るからね」 「えーと」 (父ちゃんはちょうど退職して社員寮から実家へ戻ったんだよな。アレ?電話番号知らないや。母ちゃんは、アレ?いまどこにいるんだっけ?妹は…イヤだしなあ。) 「あれ?えーと。」 「どこでもいいよ、彼女でも友達でも」 連絡先は知っているが「親に知れるとマズい」と考えてる、とでも思ったのかケーカンはそう言った。カノジョ!んなのいませんよ。ますます心にダメージを受けつつ、何とかなるだろうと 「じゃあ、あの、友人で。親友で。」言い直すなよ。 私は中川氏の自宅の電話番号を告げた。太っちょのケーカンは書き写した。(もし北海道のxx警察から電話があったら中川の母ちゃんビックリするだろうなあ。) 「ここまで誰と来たの?」 「エッ?あ、一人ですけど。」 二等兵その3が口を挟んだ。 「朝、車に乗って2人で来たんじゃねえの?」 (やっぱり、み、見られてる!) 「いえ、あの、バスを降りて向こうを歩いてたら、何だか『乗っけってってあげようか』って言われたんで、それで乗せて貰って一緒にここまで来たんです。」 「ああ、旅は道連れってヤツだな。」 (何だ二等兵その3、うまいこと言うな。助かった。) 「そう、そうなんですよ。」 「じゃあ、別に知り合いとかそう言うワケじゃないんだな。」 「そうです。知らない人です。ソコで知り合っただけで。」 漠然と、Showheyさんと「イーストサイド」に迷惑がかかるのではないかと思って、思いっきりシラを切った。 「そうかい。」 「私のほうはこれでいいんだけど」「今夜はどうするんだい。」 ネイチャーセンターの周りの地形とテントを思い浮かべながら私は逡巡した。既に辺りは闇だ。 解き放たれた空気がウロウロと事務室を漂う。そこへトコロチョーカンコーカが 「アレだったら民宿とか安いヤドを手配するよ?」 ケーカンが 「ソレくらいの持ち合わせはあるんだろ?」 「あ、ハイ、安いトコロがあるなら、そこ、お願いします。」財布をピラピラと見ながら私は言った。 トコロチョーカンコーカが電話を手に取った。 「なに?あの端っこ(湖口)を渡ろうとしたの?」 「ええ。」 「あぶねーよ、あんなとこ。」 私は疲労でぶるぶる震える手でココアをすすった。あ、この感じはむかしメインマシン(パソコン)の電源が壊れたんでサービスセンターまで電車に乗って抱えていったときと同じだ。 「いえ、おととしに行きましたけど大丈夫でしたよ。渡れましたよ。」 「で、どこから来たの?」 「網走から・・・。」 「網走から歩いてきたの?」 「い、いえ、バスで。」 「そう。向こうへ行きたいならこう、ぐるっと回って(砂州じゃない方から)行けばいいよ。」 「はあ。(それじゃ意味ねーんだよ。)」 「それに、ここいらの夜は寒いよ、明日の朝死んじゃってるかも知れないよ。」 「はは、それはどうでしょうかねえ。そんなコトないですよ。前も平気でしたし。」 「そんときはどうだったんだい。晴れてたのか。」 「晴れてましたけど。」 「そうだろう。」 「それで、氷の上を歩くんだろ?ほら、私たちが明日見に行って足跡の先に割れた氷でもあるとねえ、大変だから。ボチャンと落ちちゃったりして。そしたらみんな大変だから、どうしたんだろうかって。」 「いや、それもどうでしょうかねえ。」 ケーカンや二等兵らが口々に言った。 私は自分の見た氷の状況と経験から見て、そんなヘマはまず無いだろうという確信から、わずかながらの抵抗の言葉をようやくひねり出した。 ささやかなテイコーの言葉をひねり出したせいか、「なんで大勢に取り囲まれて連れ去られて身元を取り調べられてコンナところにいるんだろう。」という気持ちが湧き出て少しムカッ腹が立ったが、まだ私のパラメータはどん底だった。 「xx旅館さんが空いてるって。」 「じゃ、そこお願いします。」 あくまで低姿勢で「すいませんでした」とワケもなく謝ってペコペコと頭を下げて、そこを出た。(いま考えると屈辱だなあ、ホントに。)
私はトコロチョーカンコーカのクルマに荷物を載せ、助手席に乗り込んだ。 二言三言か話したが、覚えていない。覚えているのはカンコーカのケータイにデンワがかかってきて、運転しながらソレに出たことだけだ。「…いいけどさ、おまえの方が道交法違反じゃん。」 あ、そうだ夕飯の食べられるところの話をした。どこそこの食堂が…って言っていたけどその店は閉まっていた。が、私はメシなんて、もはやどうでもいいことだった。 黒川旅館という民宿に着いて、私は暑い部屋に通された。 荷物を置いてボーゼンとタバコを吸っていると思い浮かぶことがあった。 「中川と Showheyさんに連絡しなきゃ。」 PHSは圏外だった。私は財布を持ってフラフラと玄関を出た。見当を付けて歩くと公衆電話があった。感激だ。 まずトーキョーの中川に電話をかけた。親父さんが出た。中川に代わって貰い、コトの顛末を話した。 サッポロ駅で今生の別れとでも言うべきデンワをした翌日だけに彼は驚きを隠せないでいた。そりゃそうだろう。 「えー、あのね、いま常呂町のアレにいるんだけど」 「え?サロマ湖じゃ?」 「それがさー、エライ事になってさあ。」 「それでさー、何でか知らんけど!ケーサツが、ケーサツにね…」 興奮状態でおおざっぱにワケを話した。 次に Showheyさんのところへ電話した。 「あのー、田川です。今朝の…」 「ソレで、何でいまデンワしているのかと言いますとね…」 明後日は竜宮台で「イーストサイド」の編集長と竜宮台で落ち合って撮影をすることになっていたのだが、こういう事情でダメになったということと、「イーストサイド」と Showheyさんのことを訊かれたが黙って置いたと言うことを伝えた。 宿に戻ってしばらくまたボーゼンとした後、テレビを点けると「サザエさん」をやっていた。北海道も日曜はサザエさん?と思いつつ確かめたら確かに日曜日だった。タラちゃんがワガママを言っていた。 女将さん(?)が「お風呂わいてますよ」と言うので入って、食欲もないのでカロリーメイトをかじって、とにかく何も考えることもせずに寝ることにした。「あるある大辞典」のヒロミの声も何もかもが虚しかった。 |
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